ファクタリングは、法人や個人事業主などの事業者における資金調達方法の一つです。
資金調達方法としては、銀行融資や貸金業者からの貸付もありますが、融資の場合、審査にあたって決算書類など財務状態をチェックするための書類の提出が求められるのが一般的です。
では、ファクタリングではどのような審査が行われるのでしょうか。
決算していない状態でもファクタリングができるのか見ていきましょう。
■決算の必要性
法人の場合、1事業年度ごとに決算を行い、公開会社であれば決算報告をして会社の業績を公表する必要があります。
非公開会社でも、1事業年度ごとに決算を行い、税務申告をしなくてはなりません。
通常、月ごとに月次決算を行い、四半期決算や中間決算などを挟むケースも多いです。
個人事業主の場合は、1年に一度の確定申告が必要なため、日々の記帳などの経理に加えて、1年に1度収支の決算をして所得税額の計算をし、申告や納税が必要です。
■決算していない状態と資金調達の必要性
決算していない状態とは、一般的には創業間もない事業者や創業から1事業年度経過していない状態にある事業者のことを指します。
銀行融資や貸金業者からの貸付への申し込みやファクタリングにおいても、審査のための必要書類として、1期分または2期分の決算書類の提出を求められることが多いです。
1期分または2期分決算書類の提出をするには、創業して1年から2年の年月、事業を継続している状態であることが求められます。
もっとも、創業間もなく、決算してない状態でも、資金を必要とするニーズは高いです。
創業間もない時は実績がないので銀行融資なども受けにくい一方、設備投資や仕入れのために多額の資金を支出する場合や人を採用するための人件費などもかかります。
一方で、事業が軌道に乗るまでは十分な売上も上がらず、利益が上がってこないので、赤字になりがちです。
事業を継続するための運転資金を得ることや事業拡大を行っていくためにも資金が必要になります。
・決算していない状態は資金調達しにくい
決算していない状態は創業間もないなど、取引実績も少なく、現状や将来性もわかりにくい状態です。
決算書で数値上の確認もできないので、銀行融資の審査が通りにくいケースが少なくありません。
では、ファクタリングはどうでしょうか。
ファクタリングは、売掛先の支払能力が高ければ、債権譲渡をする利用者が決算していない状態でも問題ないように思えます。
ですが、実際のところは決算していない状態で利用するケースはそう多くありません。
なぜかというと、売掛取引をするには、互いの信頼関係の構築が不可欠だからです。
初めての取引相手に、いきなり高額な商品やサービスを掛売するのはハイリスクとなります。
一般的には、初回は現金または翌月一括のクレジット決済のみとし、2回目以降か、複数回問題なく入金されたのを確かめてからが多いです。
そのため、創業間もない事業者では、そもそも売掛取引による売掛債権を保有しておらず、ファクタリングできる状態にないケースがあります。
取引先の開拓に行き詰まる場合や常連客や得意客ができずに、数ヶ月以上も苦戦するケースもあり、決算してない初年度は売掛債権も保有していないケースが多く見られます。
一方、創業から数ヶ月程度でも、売掛取引を行い、売掛債権を保有しているのであれば、審査に通りにくく、返済義務を負う融資よりもファクタリングをしたいと希望する事業者は多いことでしょう。
■ファクタリングと融資の審査の違い
銀行や貸金業者からの融資では、借りた額に利息を付けて返済する必要があります。
借りた金額より大きな額を、先々の支払日に長期にわたって返済できる能力があるかが重視されるので、決算書などの財務状態を表す書類などを審査することや将来性を事業計画書などから審査することも少なくありません。
一方、ファクタリングは売掛先に対する売掛債権を買い取って、支払期日前に買取代金を支払う仕組みです。
売掛先は支払期日が到来したら、約束通りに代金を支払う必要がありますが、債権譲渡をするファクタリング利用者はなんら利息を払う必要もなく、返済義務もありません。
そのため、ファクタリング業者が損をしないようにチェックすべきは売掛先の支払能力です。
■2社間ファクタリングと3社間ファクタリングの違い
ファクタリングには大きく2つの方法があります。
2社間ファクタリングは、ファクタリング業者と利用者のみで行うもので、売掛先にはファクタリングの事実を知らせません。
売掛先に知られると信頼関係を損ね、取引が切られるなどと心配する事業者に選ばれています。
2者間で済むので手続きも簡単に済み、速やかに買取代金の支払いが受けられるのも利点です。
支払期日が到来したら、利用者が売掛先から代金を受け取ったうえで、ファクタリング業者に引き渡します。
仮に売掛先から代金の支払いが受けられなくても、利用者が代わりに自己負担でファクタリング業者に支払う必要はありません。
ファクタリング業者は、デフォルトリスクを加味して、手数料を差し引き、買取代金を支払っています。
一方、3社間ファクタリングは売掛先に承諾を得て、3社間で契約をする方式です。
債権譲渡をしたら、当該債権については利用者は関係から抜け、支払期日が到来したら、売掛先は直接ファクタリング業者に代金を支払います。
このように、ファクタリングでは、ファクタリング業者が代金を回収できるかは、利用者よりも売掛先の支払能力のほうがポイントになります。
そのため、利用者の返済能力が重要となる銀行融資に比べると、決算してない状態でも利用できる可能性が高いです。
■3社間ファクタリングなら決算していない状態でも利用しやすい
3社間ファクタリングは債権譲渡をした利用者はその関係から抜け、支払期日が到来したら、ファクタリング業者が直接売掛先から代金を受け取ることができます。
債権譲渡してから支払期日までの間に利用者が倒産したとしても大きな問題は生じません。
売掛先さえ倒産しなければ、支払いが受けられます。
そのため、3社間ファクタリングでは、決算していない状態で、決算書が提出できなくても審査が通るケースが少なくありません。
一方、ファクタリングに申し込んだのはあくまでも利用者なので、売掛先に対して決算書を求めるケースはあまりないです。
売掛先の支払能力は、企業データの照会や利用者から提出された取引履歴などから判断されるのが一般的です。
■2社間ファクタリングのリスク審査
2社間ファクタリングでは、債権譲渡後も利用者とファクタリング業者の関係が継続されます。
支払期日が到来したら、利用者が売掛先から受け取った代金をファクタリング業者に引き渡す必要があるためです。
そのため、ファクタリング業者としては売掛先のデフォルトリスクに加えて、支払期日が到来する前に利用者が倒産し、代金の引き渡しを受けられなくなるリスクも有しています。
売掛先と利用者のリスクをあらかじめ考慮して手数料を設定するので、3社間ファクタリングに比べると、2社間ファクタリングの手数料は高くなります。
手数料をいくらに設定するかを決めるうえでは、利用者の決算書類も判断材料の一つです。
■決算してない状態ならどうするか
2社間ファクタリングでは利用者の決算書の審査が、3社間ファクタリングより必要性を帯びますが、決算してない状態でも、ファクタリングに応じているファクタリング業者は少なくありません。
決算書に代えて、月次決算で作成する試算表の提出を求めるなどして、対応しています。
2社間ファクタリングでも、3社間ファクタリングであっても、創業間もなく、取引実績が少ない事業者の場合、決算してない状態より、売掛先との取引履歴が重要と言えます。
決算してない状態ということは、法人の場合1事業年度、個人事業主の場合、1年が経過していません。
その中で、売掛取引をどのくらい行っているのか、何回支払期日が到来し、売掛先から確実な支払いを受けているかが重要になります。
もし、これまでに売掛取引の実績がなく、今回が初めての売掛債権であり、支払いが1度も行われていない売掛債権をファクタリングを利用して買い取ってもらうとなると、リスクが大きいです。
代金未回収となるリスクをファクタリング業者が負うことになるため、初めての売掛債権は買取対象から除外するか、もしくは一定の少額のみ買い取るといった対応も場合によっては必要になるでしょう。
■取引履歴の確認方法
ファクタリングで提出が求められるものとして、法人の登記事項証明書や印鑑証明書、利用者の身分証明書をはじめ、審査のために必要となる決算書や確定申告書、試算表があります。
最も重要なのが、売掛債権の存在を示す契約書や請求書、注文書などの書類です。
さらに、売掛取引の履歴や実績、入金歴を確認できる書類として、入金明細が確認できる通帳やそのコピーの提出が求められます。
ファクタリングを希望する売掛先から、支払期日に入金されたことがわかる企業名や日付、支払金額が記載されている通帳のコピーなどを提出することで、売掛先の支払能力の高さをチェックしてもらうことができます。
■決算していない状態で審査に通りやすくするには
決算していない状態でも、ファクタリングの審査に通りやすくするために、どのような点に気を付ければ良いのでしょうか。
その1つとして、ファクタリングする売掛債権選びに気を付けましょう。
1本しかないなら仕方ないですが、複数の売掛債権を有している場合、受け取りたい金額に合わせて検討するだけでなく、審査の通りやすさも加味するのがおすすめです。
一般的に審査が通りやすいのは、支払能力が高い売掛先です。
もし、大企業や国、地方公共団体などに対する売掛債権を持っている場合や業績が安定している名の知れた企業、成長企業への売掛債権を有しているのであれば、名もない中小零細企業や個人事業主に対する売掛債権より優先すべきです。
もっとも、決算していない状態の創業間もない事業者は、大企業など支払能力が高く安定している事業者と取引をするのはなかなか難しいものがあります。
この場合には、支払期日までの日数がなるべく短いもののほうが審査に通りやすく、手数料も低く抑えられる可能性が高いです。
支払期日までの日数が長くなるほど、環境の変化が生じることや思わぬトラブルなどが起こるリスクも増え、利用者も売掛先も経営が悪化することや倒産するリスクも大きくなります。
これに対して、支払期日までの期間が短ければ、大きな変動が起こるリスクが小さいので、デフォルトが生じて代金が未回収になるリスクも低くなります。
そのため、審査に通りやすく、手数料率も低く設定されることが多いため、ファクタリングを利用するのに有利です。
■ハイコストでも気にしない
決算していない状態でファクタリングを利用する方法として、もう1つ考えられるのは、手数料が高くなり、ハイコストであっても仕方ないと考えることです。
決算していない状態で取引実績が少なく、まだ事業が軌道に乗っていない状態と判断されると、ファクタリング業者からすれば、支払期日までに倒産するリスクもあり、特に2社間ファクタリングでは代金未回収のリスクが増大します。
そのため、手数料を高くすることでリスクヘッジを行おうとします。
売掛債権を譲渡しても、手数料額が高額となり、手取り金額は減りますが、それでも銀行融資などに頼れない以上、ファクタリングによる資金調達ができるだけ助かると思えば、利用価値はあるのではないでしょうか。
■まとめ
ファクタリングは、売掛先に対する支払期日が到来していない売掛債権をファクタリング業者に債権譲渡し、買取代金を得る資金調達法です。
ファクタリング業者は、手数料を控除したうえで買取代金を支払いますが、支払期日が到来すると、売掛先が支払う代金を得ることができます。
そのため、売掛先に支払能力があれば、利用者の支払能力は低くても、大きな問題にはなりません。
決算していない状態で決算書が提出できなくても、ファクタリングができる場合が多いです。
特に、ファクタリング業者が売掛先から直接代金回収ができる3社間ファクタリングでは、決算書の提出も求められない場合があります。
創業間もなく、決算していない状態の場合、決算書が提出できなくても、月次決算の試算表や取引履歴がわかる書類などで審査が受けられる場合も多いです。
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